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顎変形症の外科矯正

顎変形症とは

マウスピース型矯正治療上下の顎骨のバランスが著しくずれている場合には、歯の矯正だけでは噛み合わせをきちんと治すことができません。このようなタイプの不正咬合を「顎変形症」といいます。
顎変形症では、噛み合わせのずれと同時に顔貌(骨格)のバランスにも著しい偏りがみられます。

<顎変形症の例>

  • 横顔のバランスが「三日月型」
  • 奥歯のかみ合わせが左右にずれている
  • 上下の歯並びの正中線が不一致
  • 正面から見た顔貌が左右非対称となっている

顎の骨は歯列の「土台」となっています。この「土台」の範囲内でしか歯を動かすことができないので、「土台」の位置関係のずれが著しい顎変形症では、歯の矯正のみで、噛み合わせをきちんと治すことが困難です。

そのため顎変形症では、顎骨の手術を併用して矯正治療を行う必要があります(=外科矯正)。外科矯正では、顎骨の手術によって上下の歯列の位置関係を合わせると同時に、顔貌骨格のバランスの改善も得られることとなります。

逆に、顎変形症を無理に非外科の方針で矯正とした場合、治療期間が長引きやすいばかりか、噛み合わせの確率も難しくなります。また、土台となる骨に対し、著しく無理な位置まで歯の移動を行うと歯周病的なリスクなども高まります。

外科矯正は、矯正治療の途中で入院手術を行う点と、健康保険適用の点で、特殊性が感じられるかもしれませんが、矯正医にとっては一般的な矯正治療方法の一つであり、どちらの方針にせよ、適切な方針選択がなにより重要になります。

外科矯正が適応となるケース

外科矯正適応の重要なポイントは、矯正治療をするために顎骨の手術を必要とするかどうかです。
矯正治療に支障のない範囲の、顔貌骨格のアンバランスや非対称では外科矯正の適応にはなりません。

顎関節症とは異なる疾患です!

時折、顎関節症の治療と混同したと思われるお問い合わせをいただくことがあります。
病名が似ていて紛らわしいのですが、顎関節症とは、顎関節の痛み、音、運動制限などの症状の総称ですので、「顎関節症」と「顎変形症」とは全く別の疾患です。
顎関節症の症状は多岐にわたり、噛み合わせの治療が、必ずしも顎関節症の解決に直結するとは限りません。顎関節症の治療のみご希望で、矯正治療は特に希望されない場合は、口腔外科、顎関節症科などを受診ください。

外科矯正の健康保険適用と注意点

当院は「顎口腔機能診断施設」であるため、健康保険での外科矯正が可能です。

矯正治療では、外科矯正に限り、健康保険の適用が可能です。その上で、健康保険制度上の規定と治療手順を遵守する必要があり、例えば、初診時、手術時、治療終了時には「顎機能検査」という特殊な検査が義務づけられています。また、舌側矯正やマウスピース矯正での健康保険適用はできないことになっています。

日本の健康保険制度では混合診療が禁止されているため、健保適用外の矯正処置が混在すると(矯正治療費だけでなく)入院手術までの全ての費用を健康保険適用外(=自費)で支払う必要が生じます。

また、万が一結果的に、顎骨の手術が行われなかった場合は健康保険が適用とならず、健康保険から支払われた治療費は全て返金し、患者さんには自費での矯正治療費をお支払いいただくこととなります。このような混乱を避けるため、外科矯正治療の開始時には、下記2項目の確実な確認が必要です。

  • 矯正歯科医・口腔外科医の双方から、手術併用の必要性が診断されること
  • 患者さん自身による、手術併用での矯正治療の確約が得られること

外科矯正治療の進め方

  1. 矯正の診断が終了するまでは、治療計画が未確定ですので健康保険の適用ができません。そのため、まずは検査、診断までを自費で進行します。
    検査費用:33,000円(税込)  診断費用:16,500円(税込)
  2. 診断の結果、外科矯正の方針が確定したら、手術を担当する口腔外科を受診してください。
    口腔外科を受診の結果、治療計画について口腔外科医の了承が得られたら、外科矯正の方針が確定します。さらに、入院手術を含めた治療計画に患者さんの同意が得られた後、健康保険への切り替えを行い、治療開始となります。外科矯正の方針で治療開始となった場合には、この段階で自費治療から健康保険適用での治療に切り替えをします。
  3. 自費でお預かりした検査費用と診断費用を患者さんに返金のうえ、健康保険で算定した検査、診断費用等の請求となります。しかしながら、手術を行わない方針での矯正治療となった場合や、診断までは行ったものの矯正治療を開始しないこととなった場合などは、自費でお支払いいただいた検査料、診断料の返金はできません。

外科矯正の治療の流れ

  • 手術前の歯列矯正“手術をしたら咬める歯並び”に矯正します。手術前の歯列矯正機関は不正咬合の状態や治療方針により異なり、早い方で1年程度、歯の移動量が多い場合は2年前後かかる場合もあります。
  • 入院・手術手術時の入院期間は、手術の方法や術後の経過などにより異なりますが、通常10日〜2週間程度の入院が一般的です。
  • 手術後の歯列矯正最終的な噛み合わせを仕上げます。手術後あごの骨の強度が十分に回復する期間などを見込みながら治療するので、最低でも1年程度の期間が必要です。
  • 保定観察

平日の通院をお願いしています

顎変形症の外科矯正では、口腔外科の受診を要することや、入院手術の前後は頻繁に矯正歯科などを受診の必要なことから、平日昼間の時間帯での受診も必ず必要となります。

外科矯正のような複雑な治療を円滑に進行するために、当院では上記をご了承いただけた場合に、外科矯正の治療開始としています。現在、週末は顎変形症の診察を行っておりませんので、予めご承知ください。

外科矯正で使用するブラケットについて

顎変形症の外科矯正治療における白いブラケットの使用は、現在の健康保険制度上の問題はありません。当院においても、前歯部分は白色のブラケットを用いて外科矯正治療を行っています。

外科矯正における手術前の矯正では、著しく不安定な噛み合わせとなる可能性があります。また、手術の前後で大きく噛み合わせを変化させる治療です。このような治療において、歯よりも硬いセラミック製のブラケットが一時的にでも歯の摩耗などの要因となる可能性を避け、当院の外科矯正では「クリアブラケット」というプラスチック系のブラケットを使用します。

クリアブラケットは、プラスチックブラケットとしては矯正治療に十分な強度をもち、なおかつ歯よりも柔らかいという点では安全な材質です。一般的にプラスチック系の材料は、長期的には多少の着色、変色、摩耗が避けられないなどのデメリットも有しますが、大学病院外来でも使用されている一般的矯正材料でもあり、なにより、歯を傷害するリスクが低いことが外科矯正治療に適したメリットと考えています。

一方で、日本の健康保険制度ではもとより、治療上必要十分かつ最低限という基準で医用材料費用が設定されています。矯正治療の場合は、ブラケットは金属製が確実かつ必要十分という考え方と思われますので、健康保険制度の制約のなかでは審美ブラケットや審美ワイヤーの使用や多用は現実的には困難と考えています。

当院ではこれらの背景も考慮し、長期にわたる外科矯正治療の性質に合わせた適切な材料選択を考慮していますので、ご理解とご安心のほど、お願いいたします。

顎変形症・外科矯正Q&A